ASSESSMENT

STEP 1/6

トランジション計画アセスメント
リスク評価

事業体の脱炭素へ向けたトランジションの道のりを設計するにあたり、まず行うべきことの一つは、事業体がさらされているリスクを構造的に把握することです。その上で、各リスクの発生する確率、その影響について考察し、それに応じた計画を立てる必要があります。以下の質問に答えることで、取りうる評価手法がわかります。ぜひ試してみてください。

質問 1

事業体は直面する気候変動リスクの評価を行ったか。

事業体が気候変動リスクを評価した後、次の段階では気候変動リスクと機会(物理的なもの、移行にともなうもの)を主要な事業リスクと機会(例えば業務、財務、評判)に置き換えていく。これは、気候変動関連リスクを事業とそのステークホルダーにとっての長期的な財務面での持続可能性に影響を与えうるリスク要因として捉え直す作業であり、マテリアリティ評価でもある。

この評価により、組織はトランジション計画において優先的に対処すべき重要なリスクを特定し、包括的かつ野心的な気候変動対策の実現可能性を理解することができる。
事業体が直面する移行リスクのうち優先順位の高いものが特定されたら、将来の排出削減量を測定する際の参照時点となるベースラインを設定する。
事業が考慮すべきリスクとは何か。
事業体のビジネスに影響を及ぼすリスクには二通りあり(移行リスクと物理的リスク)、事業体はそれらのリスクを考慮しなければならない。
変化する気候のリスクに対応するため、事業とサプライチェーンを脱炭素化するための方法を検討し、戦略的レジリエンスを強化していく。
気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、移行リスクを低炭素経済への移行において生じるリスク、と定義している。低炭素経済への移行では、気候変動に対応するための緩和ならびに適応措置として、政策、法律、技術、市場の大規模な変革を伴う可能性がある。これらの変革の性質、スピード、焦点によって、移行リスクは、事業体にとって様々なレベルの財務リスクや評判リスクとなる可能性がある。
物理的リスクは、気候変動の影響に関連するものである。これらのリスクには特定の事象によって引き起こされるもの(急性)と気候パターンの長期的な変化に伴って引き起こされるもの(慢性)とがある。

質問 2

事業体が直面するリスクを特定したら、次にこれらのリスクを軽減する活動を特定する必要がある。そのために、脱炭素化を促進する要素の評価を行っているか。

脱炭素化を促進する要素の評価が完了すると短期的に脱炭素化につながる活動を特定することができる。
ステップ1
削減能力の経済的評価を実施する。この評価では既存技術を用いて削減することに経済的合理性がある排出量、あるいは削減することが近い将来に経済的合理性を有するであろうと予測される排出量の割合を分析する。

例えば、電力契約を再生可能エネルギーに切り替える、あるいは業務効率を改善して排出量を削減するために投資することなどが経済合理的な選択肢として検討できるかもしれない。このアセスメントでは、スコープ3の排出量削減の可能性も対象とすべきである(例:バリューチェーンを通じたサプライヤーとのエンゲージメント等を通じて)。
ステップ2
トランジション計画を策定する際に生じる可能性のある相互作用に関する分析を行う。例えば事業体は、気候変動対策と自然環境、従業員、サプライチェーン、地域社会、顧客といったステークホルダー間で生じうる相互作用について検討すべきである。
TCFDのガイダンスでは、事業体レベルの脱炭素化を実現するとともに経済全体の脱炭素化に影響を与えるために、組織がどのような行動、資源、プロジェクトを利用できるかを理解するためのアセスメントを実施すべきであるとされている。このアセスメントにより、短期、中期、長期的にどのような行動が最も実行可能性が高くインパクトが大きいかを知ることができる。さらに、実現可能な脱炭素化のスピードを理解し、長期的な中間目標の設定にも役立てることができる。
削減能力の経済的評価とは、排出削減のコストが投資から得られる総収益よりも小さい、つまりは経済的合理性のある削減量を把握することを意味する。


ASSESSMENT

STEP 2/6

トランジション計画アセスメント
特徴1 数値目標

特徴1の数値目標の設定は、トランジション計画の策定にあたり、最初に行う重要な行動のひとつである。数値目標とは、事業体が、関連セクターのトランジション経路にいつ、どのように整合するかを示す、事業体によって設定された事業体固有の測定基準と目標の組み合わせを指す。

質問 1

事業体が選んだ経路はパリ協定に整合しているか

これはベストプラクティスである。組織の脱炭素化は2030年までの1.5℃経路に沿った、科学的根拠に基づく排出削減経路に照らし合わせてマッピングすることができる(図を参照)。1.5℃経路に整合する削減経路であるということは、信頼性の高いトランジション計画の策定ならびに評価の一つの大きなポイントである。
Climate Bondsは、科学に基づく要請として、先進国ならびに先進国の事業体に対して、1.5℃経路との整合性を求めている。1.5℃整合の必要性に対する世界的な理解は醸成されつつあり、1.5℃整合の要請は国内外の投資家からも今後高まるものと考えられる。
国内外を問わず、事業体の多くは国家戦略もしくは国が決定する貢献(NDC)を参考にしているが、NDCは1.5℃経路に整合していないことや、目標を達成するための定量的な削減経路を示していないことも多く、NDCとの整合性は必ずしも十分な野心性を意味しないことに注意すべきである。
事業体の削減経路はなぜパリ協定と整合すべきか。
パリ協定に整合的でないということは事業上の気候変動関連リスクを高めることになり、仮に財務の持続可能性の観点からは合理的であっても当該目標の妥当性は短期的となる可能性が高い。このことは特にグローバルなサプライチェーンを有する事業体に当てはまる。気候変動にともなう移行リスクと物理的リスクは必然的に事業に影響を及ぼし、投資家や金融機関も近くパリ協定との整合、そして1.5℃経路との整合を求めてくると考えられる。
事業体はパリ協定との整合をどのように示すべきか。
排出削減のトランジション経路は、世界的なカーボンバジェット(特定の温暖化レベルに抑えるために許容される累積CO2排出量のこと)に合わせるために必要なGHG排出量の年間削減量を示したものである。野心的な目標はセクターによって異なり、Climate Bondsのセクター別基準による脱炭素経路ガイダンスで確認することができる(以下、「より深く検討するためのポイント」を参照)。また、Transition Pathway Initiative(TPI)やScience Based Targets initiative(SBTi)など、基準を策定しているその他国際機関等も、科学的根拠に基づくセクター別脱炭素化経路を提示している。

なお、2023年に発行されたIGESの1.5℃ロードマップでは、日本国内で早期に大幅なGHG排出量削減を果たすためには、エネルギー自給率を大幅に高めながら再エネ中心の電力システムへの転換の追求、デジタル化や脱炭素化に資する技術の導入による社会経済の変革を提言している。同ロードマップは、1.5℃整合のセクター別削減経路も提示している。
パリ協定に従って地球温暖化を2℃より低く、理想的には1.5℃に抑えるという共通の目標に対して、それぞれのセクターがどのように整合していくかを示す経路はセクター別トランジション経路として知られている。パリ協定に整合することが具体的に意味するところは、セクターごとに異なるものの、いずれの経路も単にセクター平均やベスト・イン・クラスの(セクター内で最も優れている)実績を反映したものに留まらず、各セクターが全体的なネット・ゼロ経済社会の目標と整合するための、絶対的であり、将来の見通しを織り込んだ、技術的に実現可能な経路である。
現在の日本のNDCは「2030年までに温室効果ガスの排出の46%削減(2013年比)を目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦し、2050年にはカーボンニュートラルを目指す。」であるが、2024年末にはさらに目標を引き上げることがパリ協定で求められている。


より深く検討するためのポイント

排出削減目標の設定について
排出削減困難 (Hard-to-Abate)なセクターにおけるよく練られたトランジション計画では、少なくとも2030年と2050年のGHG排出削減目標とそれらに向けた中間目標を定めるべきである。

例えば、Climate Bonds認証プログラムの考え方では、気候変動緩和に係る数値目標(The Climate Mitigation Performance Targets)は、認証取得日から、その活動のネット・ゼロ排出達成予定日、または2050年のいずれか早い日までの期間を対象としている。

気候変動緩和に係る数値目標には、認証後9年間は3年間隔で設定された中間目標、その後、残りの目標期間中は5年間隔で設定された中間目標が含まれる。

Climate Bonds認証プログラムでは、気候変動緩和に係る数値目標が、その事業体のセクター基準(1.5℃整合のセクター別脱炭素化経路)と整合することを確認できれば、当該事業体のトランジション計画ならびに数値目標が1.5℃に整合しているという認証を付与している。また、事業体の排出量ならびに目標がセクター基準に整合する時期に応じて、2段階の認証を認めている。

レベル1 「アラインド認証」:気候変動緩和に係る数値目標が、認証時点およびその後、ネット・ゼロ排出を達成する日または2050年のいずれか早い時期まで、セクター基準と整合する。
レベル2 「トランジション認証」:気候変動緩和の数値目標が、認証時点ではセクター基準と整合していないが、2030年12月31日までに整合し、その後、気候変動緩和の数値目標がネット・ゼロ排出を達成する日または2050年のいずれか早い日まで整合する。
事業体がベンチマークとすべきセクター経路について

気候変動緩和に係る数値目標は、それが野心的で信頼性の高いものであるためには、1.5℃度の地球温暖化シナリオに沿った科学的根拠に基づくセクター別の脱炭素化経路と整合するものでなければならない。

セクター別の脱炭素化経路に関する情報の参照先として、Science Based Targets initiative (SBTi)、Transition Pathway Initiative(TPI)、Rocky Mountain Institute (RMI)、International Energy Agency (IEA )、Assessing Low-Carbon Transition initiative (ACT Initiative)、気候変動に関する政府間パネル (IPCC)、シドニー工科大学 (UTS.6)などが挙げられる。

また、Climate Bondsでも、セメント、鉄鋼、基礎化学品、電力事業、農業など特定のセクターについて、セクター基準(Sector Criteria)として推奨削減経路を定めており、Climate BondsのWebサイトで入手できる。

事業体の設定したトランジション計画の数値目標をは、科学に基づいた、信頼性の高い関連セクターの脱炭素化経路と比較することで、十分に野心的かどうかを判断することができる。

セクター別の経路が利用できない場合は、SBTiのセクター横断的アプローチ (Cross-Sectoral Approach (CSA) )またはベスト・イン・クラス比較を利用することができる。

質問 2

目標は、ベースラインに対して、排出原単位で設定されているか、もしくは絶対削減量で設定されているか

これはベストプラクティスであり、強く推奨される。
絶対削減量での目標設定を補完する目標として有用であるが、併せて絶対削減量ベースでの設定が強く推奨される。1.5℃経路に整合する排出原単位ベースの指標は、クライメートボンド基準のセクター別クライテリアに詳述されている。
排出原単位ならびに絶対削減量での目標設定には、それぞれに意味がある。事業体は、補完関係にもある2つの側面(すなわち事業体の絶対排出量ならびに意味のある炭素効率を表す物理的指標)が、将来どのように変化するかを検討し、目標を達成するための計画やその進捗をステークホルダーに対して伝えていくことが必要になる。

GHG排出目標は、以下を含むべきである。

  • スコープ1と2のGHG総排出量の絶対削減目標
  • スコープ3のGHG総排出量の絶対削減目標
  • スコープ1と2の物理的または経済的生産高1単位あたりのCO2換算(トン)で表されるGHG 排出原単位目標
  • スコープ3の物理的または経済的生産高1単位あたりのCO2換算(トン)で表されるGHG排出原単位目標
  • 事業体が設定した追加的なその他のGHG排出目標(メタン削減目標など)


質問 3

これらの目標はスコープ1、2、3を対象としているか。

補足事項:
基本的には、あらゆる排出量を含めるべきである。特定の排出量が事業体にとってマテリアルでない場合や下流の排出量について管理が及ばない場合も考えられる。ただし、石油やガス関連の事業体については、スコープ3排出量を含むすべてのスコープを対象とすることが求められる。
特定の排出量を削減目標や排出量報告の対象とするか否か、もしくは目標設定や排出量測定の対象となっている排出量の範囲が適切に設定されているか否かの判断には、具体的な基準がある。

まずは、セクター別のスコープ別排出量の重要度から見ることが必要である。

また、事業体が属するグループ全体のスコープ1と2の排出量合計の少なくとも95%が報告書に含まれている場合、排出量の範囲が適切に設定されていると考えられる。

なお、スコープ3の排出量を伴う事業体では、スコープ3の排出量が総排出量(スコープ1、2、3を合わせたもの)の40%以上を占めている場合は、目標設定・排出量測定の対象範囲に含めることが適切だと考えられる。スコープ3の排出量が対象範囲に含まれる場合、目標設定・排出量測定の対象がスコープ3総排出量の90%以上を占めている場合は、排出量の範囲が適切に設定されていると考えられる。
目標がスコープ1、2、3を対象としていない場合、除外の理由が説明されているか(それらの排出量の重要度が低い、排出量の10%未満であるなど)。

さらに、サプライチェーンに対するエンゲージメント戦略や計画を開示し、スコープ3の重要な排出源を管理する目標期日を公表することも検討できる。
スコープ1排出量とは、事業体が管理または所有する発生源から直接発生する温室効果ガスの排出量のことである。(例:ボイラー、炉、車両における燃料燃焼に伴う排出量)

スコープ2排出量とは、他社から購入した電気、蒸気、熱、冷房の利用に関連する間接的なGHG排出量のことである。

スコープ3排出量とは、事業体が管理または所有していない資産の活動により発生するものの、バリューチェーンにおいて事業体が影響を及ぼす間接的な排出量のことである。(出典:米国環境保護庁 (EPA))
セクター別のスコープ別排出量の重要度

以下の図は、セクター別のスコープ別排出量の重要度を示している。これは、ハイレベルな概要を示しているが、CDP*やGHGプロトコルは更に詳細なガイダンスを提供している。図で示されているように、スコープ3はほとんどのセクターにとって重要であり、可能な限りトランジション計画に含めるべきである。

これらの目標は、事業体がネット・ゼロ目標を達成するまでの全期間を対象とするもので、進捗状況の定期的なモニタリングと報告を可能にする中間数値目標も設定されている。
*CDP:CDP(旧Carbon Disclosure Project)は、企業・自治体が環境影響を管理するためのグローバルな情報開示システムを運営する英国のNGO

質問 4

事業体は、そのトランジションを追跡するために、排出原単位 / 絶対削減量に加えて、1.5℃のセクター別経路に十分に整合している他の数値目標を設定しているか。

情報が入手可能な場合、以下のパラメータを開示することが推奨される:

  • 目標を設定した目的
  • 目標が適用される期間
  • 進捗を測定するためのベースラインとなる期間、測定方法
  • 中長期目標に関しては、マイルストーンや中間目標(中間目標とは、目標設定時から5~10年後を指す)を設定する
  • 目標達成に向けた進捗状況を評価するための指標
  • 当該指標が依拠する測定単位、測定方法、定義
  • 当該指標が依拠する測定データならびに推計データの程度や割合
GHG排出量は基本的かつ理想的な目標であるが、他の追加的「代理」指標も有益でありうる。

例えば、食品加工業者は気候変動に配慮した農法であると認証された農場やサプライチェーンより調達する割合に関連する指標や重要業績評価指標(KPI)を選定することが考えられる。

または、石炭火力発電から自然エネルギー発電に転換する事業体であれば、特定の期日までに廃止する石炭火力発電の割合に関する重要業績評価指標(KPI) を選定することが考えられる。

あるいは新技術の開発の速度を捉える目標も考えられる。例えば、自動車生産における電気自動車 (EV)と内燃機関車 (ICE)の比率等である。これらの目標は、導入される再生可能エネルギー容量として捉えることができ、グリーン収益比率の予測を示唆する値としてもステークホルダーの関心に沿った情報となりうる。

質問 5

事業体の目標は、過去の排出量に関連して設定されているか。

補足事項:
野心的な目標はセクターによって異なるものであり、野心性を判断するためのガイダンスは、Climate Bonds、TPI、SBTiなどの団体が提供する、セクター別脱炭素経路に関する提言から得ることができる。

事業体の目標を評価する際には、その目標が過去の排出量を考慮して設定されているかどうかも重要である。過去の排出量との比較により、長期的な排出削減に対する事業体のコミットメントを評価することができる。
事業体の過去の排出量を考慮して目標を設定することは重要だが、事業体自身のBaU (Business as Usual)からの削減量のみで事業体の数値目標を設定しても、それだけでは不十分である。そのセクターの未来を見据えトランジション経路とどのように整合するかについても合わせて示すように設定されるべきである。評価のポイントは、事業体自身の実績と比較して変化が大きいか、小さいかではなく、その変化による結果が必要とされる全世界的な排出削減目標と整合するか否かでなければならない。
事業体の過去の排出量を考慮した目標の設定により、事業体のコミットメント、努力の度合い、現在地の確認等が可能となり、一定の意義があるものの、それだけでは不十分である。信頼性の高いトランジションとは、そのセクターに属するすべての事業体に共通する、未来を見据えたトランジション経路に整合することを意味する。これは業界レベルの比較を可能にし、全世界的に見た将来のカーボンバジェットを考慮するものである。評価のポイントは、事業体自身の実績と比較して変化が大きいか、小さいかではなく、その変化による結果が必要とされる全世界的な排出削減目標と整合するか否かでなければならない。


質問 6

GHG目標はカーボンクレジットに依存しているか。

信頼性の高いトランジション目標や経路には、従来カーボンクレジットのような、オフセットは含まれない。

Climate Bondsでは、カーボンクレジットなどのオフセットをトランジションの主要な戦略として位置付けるべきものではないと考えている。
カーボンクレジットのようなオフセットの利用には留意すべき点がある。カーボンクレジットの利用がなければ、この点において追加的に考慮すべきことはない。
カーボンクレジットとは、認証プロジェクトによって達成されたGHG排出量の削減、回避、回収に価値を割り当てるための総称。CO2換算で1トン(CO2e)あたりの価値を算出する。カーボンクレジットは、事業、団体、個人が、GHGを削減または吸収し、持続可能な開発にも貢献した活動に金銭的な報酬を与えることで、カーボンフットプリントをオフセット(相殺)するために使用することができる。

質問 7

GHG削減目標は、炭素回収貯留 (CCS)または炭素隔離に依存しているか。

Climate Bondsのセクター別クライテリアと基準は、耐久性のある製品(石油増進回収法など、炭素を再放出できないもの)にのみCCSを認めている。CCS利用の適切性は、セクターによって異なりうる。
CCSの利用には留意すべき点がいくつかある。CCSの利用がなければ、この点において追加的に考慮すべきことはない。

追加ガイダンス 数値目標の設定と管理

  1. STEP 1

    事業体に適した重要業績評価指標(KPI)を設定する

    主要な測定基準の目的は、気候関連のリスクと機会を測定し、管理することである。成果をモニタリングし報告するための最も適切な指標や目標は、事業体のビジネスモデル、規模、戦略的目標など、様々な要因によって異なってくる。英国移行計画タスクフォース(UK Transition Plan Taskforce)では、事業・業務指標、財務指標、GHG排出指標、炭素クレジットなど、様々な指標の目標を設定することを推奨している。

  2. STEP 2

    数値目標の継続的な見直しと再調整

    選択した数値目標は、定期的に見直し、変化する事業条件や新興技術が予想より早く市場に出回るなどの市場動向を反映して、再調整すべきである。可能な限り厳格化を図り、継続的な改善を確保するためにもそのような再調整のためのプロセスを定めるべきである。

  3. STEP 3

    選択した数値目標に対するパフォーマンスの追跡

    事業体は、選択した数値目標の進捗状況をモニタリングし、評価するための堅牢なプロセスを構築すべきである。当該プロセスには、これらの目標の達成に向けて実施する具体的な行動の追跡を含めるべきである。これを促進するために、組織は追跡・推定のための適切なツールを活用すべきである。
    これには、その他団体(例:気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD))が推奨する、水使用用量、エネルギー使用量など、排出量として表現/数値化されない数値目標に関するパフォーマンスツールや同等のガイダンスが含まれる。


ASSESSMENT

STEP 3/6

トランジション計画アセスメント
特徴2 堅牢な行動計画

堅牢な行動計画:具体的な行動、資金調達、ガバナンス
特徴1のもとで選定した 事業体固有の数値目標は、その達成に向けて現在地から求められる状況に至るまでの方法を詳述したトランジション戦略と関連する行動計画や資金調達計画に支えられて初めて信頼に足るものとなる。特に、選択した数値目標が反映する短期・中期・長期のマイルストーンをどのように達成するかに重点を置き、戦略目標、方向性、方針、事業体変革を推進するガバナンス体制に関して段階的かつ定性的な方法で記述すべきである。
事業体のトランジションにおいて、そのトランジション戦略と関連する具体的な行動計画が、 事業体が選択した数値目標にどのように到達するかを詳述し、達成可能で追跡可能なマイルストーンによって示している場合にのみ、信頼に足るものとなる。
事業体が、関連セクターのグリーントランジション経路にいつ、どのように整合するかを示す、事業体によって設定された事業体固有の測定基準と目標の組み合わせ。

セクションA:戦略

質問 1

事業体は、トランジション戦略ならびに計画を詳述しているか。

補足事項:
トランジション計画には、「よりクリーンなエネルギーソリューションへのトランジションを加速する」、「オペレーションを近代化する」、「グリーンソリューションを活用する」といった漠然とした記述が含まれることが多い。このような計画の実効性を高めるためには、それぞれの具体的な行動に関して、具体的かつ実行可能で、測定可能な詳細を示すことが不可欠である。明確で十分に定義された目標と戦略は、実施と進捗状況のモニタリングを成功させるために極めて重要である。

信頼性の高い事業体のトランジション戦略とは、達成可能で追跡可能なマイルストーンを含む、事業体が選択した数値目標をどのように達成するかを詳述した行動計画である。トランジション戦略は、事業体のより広範なビジネスモデルと事業計画に完全に統合されていなければならない。

トランジション戦略:トランジション戦略は、ネット・ゼロ目標に焦点を当てるべきであり、従って、 気候変動に関連するリスクや機会への対応と整合したものでなければならない。そしてそれは、より広範な事業体戦略の一部であるべきである。戦略の策定は、脱炭素化にかかる活動、バリューチェーン管理、排出実績の改善のための施策等に焦点を当てるべきである。

トランジション戦略ならびに計画の開示が包括的であるためには以下が含まれる:

  • 現在のGHG排出量(絶対排出量ベース)、およびクライメートボンド基準に詳述されている排出原単位などの指標。これには、現在のGHG排出源と排出量、その算出・検証方法と検証主体に関する情報が含まれる。
  • 主な脱炭素化の手段、その予測される時期および排出削減効果
  • 想定される市場動向、事業成長、トランジション戦略の前提となっている需要予測や価格設定、ならびに政府政策や規制
  • 戦略の実現における重要な課題
  • 予測、前提、または成果において不確実性の大きい分野
  • 事業体が、より広範なビジネスモデルにおいてどのようにトランジション戦略を組み込んだか、製品およびサービスへの影響、想定される運営費や設備投資、資金や資源の調達、買収またはダイベストメントの予定など。

トランジション戦略では、事業体の脱炭素化戦略がビジネスモデル全体にどのような影響を与えるかを特定し、目標を達成するための短期、中期、長期にわたる具体的な行動のロードマップを策定する。

英国移行計画タスクフォース (UK Transition Plan Taskforce)は、短期の行動のロードマップは活動レベルで細かく定められるべきであり、また、計画をどのように展開し実施するかを全体的に検討する上で、事業体のあらゆる部署や機能の関わりが必要であると提言している。

ロードマップ作成の一環として検討しうる活動として以下が考えられる:

  1. 1)サプライヤーと協力してGHG排出量を削減し、排出量の多い活動の段階的廃止計画を策定する。
  2. 2)新しい低炭素技術もしくは製品を試験的に導入する。
  3. 3)トランジション計画の基礎となる主要な仮定について追加調査を行う。
  4. 4)ロードマップを評価するためのモニタリングの仕組みを特定する。

この具体的な行動計画は、選択された数値目標を達成するために行われる変更を明らかにする。また、行動計画を構成しうる部分計画として以下が考えられる:

  • 適切な技能の提供を確保するための人材育成計画(例:職員研修の変更)
  • サプライヤーエンゲージメントを念頭においた調達計画(例:調達基準に関するサプライヤーとの(再)交渉)
  • 顧客エンゲージメントのためのマーケティング・営業計画
  • 新規事業のための事業開発計画
  • サプライチェーンとのエンゲージメント計画
  • 政策エンゲージメント(事業に関連する政策などに影響を与えるためのロビー活動など)のためのコミュニケーション・広報計画

なお、計画を予定通りに遂行できない要因となりうるリスクの評価と、それらのリスクを軽減するために講じられている措置に関しても説明がなされるべきである。

気候変動戦略は、ネット・ゼロ目標に焦点を当てるべきであり、従って、 気候変動に関連するリスクや機会への対応と整合したものでなければならない。そしてこれは、より広範な事業体戦略の一部となるべきである。戦略策定は、脱炭素化にかかる活動、バリューチェーン管理、排出実績の改善のための施策等に焦点を当てるべきである。
広範な社会・環境との整合
ビジョンと戦略的ストーリーの実現に関連する、環境または社会的な負の外部性の概要評価。
それらの影響を緩和するために、事業体が講じている、あるいは講じる予定の措置の概要説明。
脱炭素社会へのトランジションが、その活動が実施される地域における公正なトランジションにどのように貢献するのかについての概要説明。


より深く検討するための追加情報

トランジション戦略に関する追加的検討事項

戦略は、事業体の取締役会により承認されることが推奨される。

トランジション戦略には、以下の基本要素を含めるべきである:

1)ビジョン
将来の経済活動、物理的資産、長期的な気候変動緩和に係る数値目標に沿ったビジネスモデルがどのようなものかを示し、トランジションの戦略的目標と優先事項を説明する。
2)戦略的ストーリー
事業体のビジョンに沿った活動が、ビジネス上の背景を考慮した上で、どのように現在の位置付けからビジョンに至るまでに発展していくかを説明する。
3)より広範な社会・環境との整合
ビジョンと戦略的ストーリーが、事業体のより広範な環境・社会目的、戦略、ならびに/または方針と整合するかを説明する。特に生物多様性への影響、有害廃棄物ならびにそれらの水域への排出などによる影響ついての考慮や対応策を示す。

質問 2

事業体は、ビジョンを実現するための計画において、不確実性の主な原因を特定したか。

ビジョン、手段、具体的な行動計画、資金調達計画は、サステナビリティ報告書やTCFD報告書での開示内容と一貫していなければならない。

トランジション計画を策定する際に検討すべき重要な要素として、感度分析の実施が挙げられる。事業体は、特定の仮定(例:新技術の拡大、サプライチェーンへの働きかけ、政策変更、需要の変化)に対するトランジション計画の依存性を正しく把握するために、感度分析を行うべきである。この情報により、事業体は計画の実現可能性をより適切に評価・モニタリングできるようになり、実施・エンゲージメント戦略を適切に修正、更新することができる。

例えば、感度分析は、事業体は、削減目標を達成するために必要となる政策変更を理解し、それらを開示し、適切な政策エンゲージメント戦略を策定する一助となりうる。

感度分析:感度分析を実施する際に留意すべきは、感度の高い変数もしくはリスクの高い変数は、その事業活動、規模、立地条件などに応じて、その事業体固有のものとなる点である。最低限、以下に関連する主要な感度とリスクについて考慮する必要がある:

  • 政策・規制の変更(例:政策・規制の変更により投資コストへの補助がどのように変化するか)
  • 技術開発(例:新技術の実装の時期やコストへの依存)
  • 気候の変化の現状と予測による物理的インパクト(例:降水パターンがどのように変化するか、操業に必要な水へのアクセスにどのような影響があるか)
  • 顧客や消費者の需要の変化(例:事業体が現在提供していない製品やサービスに対する需要の水準)
  • 操業環境の変化(例:送電網の脱炭素化)
  • 主要な投入資源の価格/希少性など、サプライチェーンに関する検討事項

主要な感応度とリスクは、その事業活動、規模、立地条件などに応じて、その事業体固有のものとなる。最低限、以下に関連する主要な感応度とリスクについて考慮する必要がある:

  • 政策・規制の変更(例:政策・規制の変更が投資コストをどのように経済的に支援するか)
  • 技術開発(例:新技術への依存と実施の時期とコスト)
  • 気候の変化の現状と予測による物理的インパクト(例:降水パターンがどのように変化するか、操業に必要な水へのアクセスにどのような影響があるか)
  • 顧客や消費者の需要の変化(例:事業体が現在提供していない製品やサービスに対する需要のレベル)
  • 操業環境の変化(例:送電網の脱炭素化)
  • サプライチェーンに関する考慮事項、主要な投入資源の価格/希少性

質問 3

事業体は、排出量の現状とトランジションのリスク/機会について明示しているか。

事業体が排出源に関する現状とトランジションのリスク/機会について詳述する際には、主要な排出源、その事業と財務状況が直面する可能性のある、気候変動関連のリスク、同時に、事業体が取り入れられる可能性のある革新的な解決策/機会について含めるべきである。また、排出量報告の精度と透明性を維持するために、国際的に認知されたGHGの算定方法を使用し、算定方法の境界を明確に定義することが推奨される。


セクションB:財務計画

ネット・ゼロを達成するための戦略の一環として、事業体は、そのトランジションに関する期限付きの財務計画の詳細を概説すべきである。例えば、設備投資 (CapEx)、運営費 (OpEx)、収益などである。

設備投資(CapEx):トランジション計画の有効性は、低排出将来へのトランジションの実施を支援するために計画された設備投資にかかっている。設備投資(CapEx)とは、不動産、建物、産業プラント、技術、設備などの固定資産の購買を示す指標であり、損益計算書上では支出としてではなく、事業体が資産計上するもしくは貸借対照表上では投資として表示するあらゆる種類の費用のことである。

事業体は、トランジション戦略ならびに計画が、財政状況の見通し、財務パフォーマンス、キャッシュ・フローに、長期的にどのような影響を与えるかを評価すべきである。これには、設備投資、資産評価損、運営費、製品やサービスに対する需要など、予想されるより広範な財務面への影響が含まれる。

財務計画:財務計画とは、事業体がその目的や戦略的目標を達成し、資金を調達する方法に関する計画を指す。財務計画により、事業体は将来の財務状況を評価し、短期及び長期の目標を追求するために資源をどのように活用できるかを決定することができる。

事業体はしばしば「財務計画」を作成し、1〜5年の期間にわたって目標を達成するために必要な具体的な行動、資産、資源(資本を含む)を概説する。しかしここでいうところの「財務計画」は、長期的な資本配分や、典型的な3~5年の財務計画を超えるようなその他の検討事項(投資、研究開発 (R&D)、製造、市場など)を含むため、一般的な財務計画よりも広範なものとなる。

設備投資 (CaPex)とは、不動産、建物、産業プラント、技術、設備などの固定資産の購買を示す指標である。あるいは、設備投資とは、損益計算書上では支出としてではなく、事業体が資産計上するもしくは貸借対照表上では投資として表示するあらゆる種類の費用のことである。(出典:CDP)

質問 1

トランジションにかかる費用とその資金調達方法について、トランジションが財務に与える影響が詳述された実行可能な財務計画を事業体が有しているか。

事業体は、可能な限り、トランジション計画が財務業績(収益とコストの変化)、財務状況(資産と負債の変化)、キャッシュ・フロー(運転資本の変化)に対して予想される影響を評価すべきである。
事業体の全体的な財務状況への影響:一般的に、資本集約的なセクターや、トランジション計画が非常に大きな投資とコストを伴うと予想されるセクターでは、事業体の全体的な財務状況にもたらされる影響も大きく、財務的な考慮がより大きな意味を持つ。トランジションに多大なコストを伴わない事業体は、財務計画に関して求められる情報量は少ない可能性が高い。

財務計画には、追跡・モニタリングが可能な中間マイルストーンとならびに指標が含まれる。

より深く検討するためのポイント

サステナブル・ファイナンス(グリーン、ソーシャル、サステナビリティ、サステナビリティ・リンク・ボンド (SLB)、融資など)に関する実績について
事業体が持続可能性と脱炭素化の目標に向かって取り組んできた経緯がある場合、投資家は、その事業体の野心と技術的専門知識が時間の経過とともに蓄積され、より野心的で効果的な戦略につながると予想する可能性が高い。
事業分野ごとの財務計画について
多様な事業分野を持つ事業体は、事業分野ごとの排出削減計画を示しながら、設備投資計画も事業分野ごとに示すことが推奨される。
投資対象となる事業活動について
投資対象となる事業活動のうちグリーンなもの対ブラウンなもの、特定のタクソノミー等に整合するもの対整合しないものといった対比やベンチマーキングを用いて財務計画を説明している事業体は多くないが、気候変動に対応する事業体のコミットメントの確認、強化につながりうるため、グッド・プラクティスとして挙げることができる。
化石燃料ならびに化石燃料関連インフラのロックインについて
化石燃料に関して推奨されるアプローチは「拡大しない」方針であり、新たな化石燃料関連資産の取得またはリースのための追加的な設備投資は承認されない方針が最も望ましい。これら資産には、有形固定資産(例:不動産、プラント、設備)も無形資産(例:営業権、資産化されたライセンス)も含まれうる。
取締役会の承認を既に得ている設備投資は、関連する化石燃料関連資産に係る除外規定から除外される。既存の化石燃料関連資産のメンテナンスのための設備投資は、その資産の寿命を延長しない限り、認められる。

気候変動緩和に係る数値目標を達成するために必要な設備投資設備投資 (CapEx)と運営費運営費 (OpEx)に関連するコストを指す。 例えば、新技術やインフラへの研究開発 (R&D)や投資コスト、サイトの修復、契約違約金、規制コスト、事業体再編コスト、トランジションに伴うサプライヤー価格の上昇、再生可能エネルギー資産への投資による長期的なエネルギーコストの節約などである。
このコストには、現在すでに確定している、、もしくは予想されるすべての影響を勘案し、その内容を反映しなければならない。

収益への影響には、製品又はサービスの提供の変更及び/又はそれらの価格によるプラス及び/又はマイナスの影響を含まなければならない。

貸借対照表への影響は、貸借対照表及びキャッシュ・フローへの影響を含まなければならない。例えば、資産価値の見直しなどである。

なお、トランジションの費用に関連した長期的に追跡可能な目標指標としては、以下が考えられる:

  • 戦略的ストーリーに沿った事業体の設備投資の割合
  • 戦略的ストーリーに沿った事業体の研究開発(R&D)の割合
  • ビジョンに記述されている製品/サービスと整合している事業体の資産の割合
  • ビジョンに記述されている製品/サービスと整合している事業体の収益の割合
一般的に、資本集約的なセクターや、トランジション計画が非常に大きな投資とコストを伴うと予想されるセクターでは、財務的な考慮がより大きな意味を持つ。低排出量へのトランジションに多大なコストを伴わない事業体は、財務戦略に関する詳細をあまり提供しない可能性が高い。
化石燃料ならびに化石燃料関連インフラ:化石燃料ならびに化石燃料関連インフラには、水圧破砕法、北極圏での掘削、オイルサンド、シェール鉱床などの非在来型資源も含まれる。

追加ガイダンス 行動計画に含まれるべき要素

  1. A

    スコープ1と2の排出量に対する具体的な行動計画

    事業体が脱炭素戦略のために実施予定/実施中の追跡可能な行動に関するタイムライン付きの計画。これには、毎年の中間マイルストーンと評価指標が含まれる。

  2. B

    スコープ3排出量に対する具体的な行動計画

    事業体がスコープ3排出量に対応する脱炭素戦略のために実施予定/実施中の追跡可能な行動に関するタイムライン付きの計画。

  3. C

    財務計画

    行動計画の財務的意味合いを詳述した財務計画、及びこの財務計画を達成するために実施予定/実施中の追跡可能な具体的行動。

  4. D

    内部方針の整合性

    気候変動緩和に係る数値目標、具体的な行動計画、財務計画を達成するために策定した/策定する予定の主要な内部方針と条件に関する情報。

  5. E

    感度分析

    気候変動緩和に係る数値目標の達成に決定的な影響を与える可能性のある、行動計画及び財務計画に対する主要な感度とリスクを特定する分析。

追加ガイダンス 設備投資の評価と排出量目標との整合性

  1. STEP 1

    事業体は、短期的・中期的な排出削減目標を特定したことを踏まえ、対応するトランジションに必要な設備投資を特定したか。

    事業体は現時点でのトランジション計画のリソースの調達方法と、これらの措置が事業体の財政状態、業績、キャッシュ・フローに与える影響の予測を評価する必要がある。これには以下が含まれる:

    • 事業計画および事業運営、製品およびサービスにおいて概説される活動から生じる、予想される設備投資ニーズを、絶対額で、また可能であれば、同時期の設備投資総額に対する相対額で示す。
    • 事業計画および事業運営、製品およびサービスから生じる研究開発 (R&D)活動に対する予想される投資ニーズを、絶対額で、また可能であれば同時期の研究開発 (R&D)支出総額に対する相対額で示す。
  2. STEP 2

    割り当てられた設備投資は、計画された総設備投資に比例しているか。

    これは、気候変動が優先事項としていかに重要であるかを、事業体のステークホルダーに示すために重要な役割を果たす。

  3. STEP 3

    現在計画中の設備投資に関して、事業体は、この将来の支出が排出量に与える影響を検討し、それが事業体のGHGの目標や数値目標に沿ったものであるかどうかを検討したか。

    もし設備投資の計画が、計画されているGHG目標への影響という観点から再評価されなければ、どのようなトランジション計画も、その包括性と有効性を著しく損なうことになりかねない。


ASSESSMENT

STEP 4/6

トランジション計画アセスメント
特徴3 具体的な行動

特徴3では、特徴1及び特徴2で確認されたビジョンと計画が具体的に実行されているかを確認する。特徴3の具体的な行動とは、中間数値目標の達成を実現するためにすでに取り組まれている明確な実施計画のことであり、達成状況の評価に使用される指標が特定されていることである。

行動計画の実施と開示

質問 1

事業体のトランジション戦略に対応する行動計画が策定され、開示されているか。

戦略を具体的な行動に落とし込むための第一段階として、事業体は具体的な選択を明らかにする必要がある。現状の排出量や気候変動によって事業体が直面するリスクを評価する中で事業体は排出量削減のための短期的に取りうる選択を特定できるようになる(行動計画の策定に関する詳細については本ツールキットの特徴2に記載された解説等を参照)。
事業体のトランジション戦略ならびに行動計画にはいくつかの目的がある。内部的には事業体のコミットメント、野心、戦略を共有し、社内のステークホルダーを導くためのものである。対外的には責任ある企業市民として事業体のコミットメントを示すものとなり、アドボカシーのツールとしても活用することもできる。提供される情報が包括的であればあるほどガイダンスとして優れていると言える。

重要業績評価指標 (KPI)の追跡に関する報告

質問 1

事業体は、具体的な行動計画で特定された中間マイルストーンと指標を達成しているか。

マイルストーンや指標が達成されている場合であっても、データのインプットと計画そのものや利用しているデータを定期的に見直し、仮定と分析が正確であったことを確認する必要がある。気候変動のトランジション計画とは動的なものであり、ビジネスとその市場が進化するにつれ、再検討と軌道修正ならびに更新の両方が必要となる。

また、事業体の設定されていた中間マイルストーンが十分に野心的なものであったかであるかどうかもあらためてを検討する価値がある。
マイルストーンや指標が達成されなかった際には、その要因を見直す良い機会である。例えば、事業体を取り巻く環境や関連サプライチェーンのトランジションのペースが事業体の想定や野心に比べ遅れているなど、様々な理由が考えられる。

あるいは、計画したトランジションのペースを実現もしくは維持するための適切な実施計画を策定していなかったり、計画を実現させるための適切なドライバーを特定できていなかったりした可能性もある。

なお、計画策定時に入手できたデータが限定的だったこと、その質に課題があったことも考えられる。データの利用可能性は、見直しプロセスの相互作用の中でより堅牢なものとなり、時間の経過とともに向上する。

どのような場合であれ、マイルストーンや指標が未達成となった要因を検討し、説明し、どのような是正措置を講じるかを説明すべきである。

質問 2

行動計画は第三者機関によって検証され、実施の進捗について毎年報告されているか。

補足事項:
トランジション計画の第三者認証および/または検証は(現在、Climate BondsとAssessing low-Carbon Transition Initiative (ACT Initiative)などが提供)、事業体がその野心をステークホルダーに伝えることを支援するという観点において非常に価値のあるツールである。
事業体がその野心をステークホルダーに伝えるという点、またトランジション計画に対する投資家の信頼を高めるという点において、一歩先を進んでいる。
Climate Bondsは、すべての計画について第三者機関による検証もしくは認証の取得を推奨している。トランジション計画が含むべきもの、関連する追加情報をどのように入手すべきかについて、すべてのステークホルダーが理解を深める必要がある。

追加ガイダンス 行動計画の設計と実施

  1. STEP 1

    サプライチェーンのマッピング、開示体制の整備、データソースの特定、リスク管理のためのガバナンスの仕組みなど、トランジション計画で特定された変更の実施を支援するシステムを確立する。

    より具体的には、事業体は、気候関連財務情報開示タスクフォース (TCFD)に沿った開示の下で既に報告している指標や目標のうち、どの指標がトランジション計画に対する進捗を測定する上で意味があるかを評価したいと考えるかもしれない。例えば、以下のようなものがある:

    • スコープ1、2、3のGHG中間排出量削減目標
    • トランジションリスクや物理的リスクに脆弱な資産や事業活動の量と程度(例:石炭採掘による収益の割合、100年間の間に洪水が起きうるエリアにおける住宅ローンの件数と金額など)。
    • 気候変動関連のリスクや機会に対する、設備投資、財務、投資の額 (例:低炭素製品やサービスの研究開発 (R&D)への投資、気候変動への適応への投資などの年間売上高に占める割合)
    • 経営幹部報酬のうち、気候変動への配慮と連動するものの割合
  2. STEP 2

    取締役会監督のための重要業績評価指標 (KPI)追跡

    事業体は、取締役会レベルの効果的なモニタリングを可能にするために、必要な内部ガバナンスシステムとモニタリングメカニズムを構築している。 この内部統制システムには、内部監査システムを含むことができる。

  3. STEP 3

    重要業績評価指標 (KPI)の達成をサポートするエンゲージメント戦略を持つべきかどうかを判断する。

    例えば、農業・食糧のようなスコープ3の排出量が多いセクターにおいて、上流・下流での排出量削減を支援するために、どのようなサプライチェーンへの関与を行ってきたか。

    さらに、事業体がトランジション計画を達成する上で制度的な障壁がある場合、業界同業者とのエンゲージメント戦略は、効果的なセクター横断的協働アプローチとなる。これには、例えば、業界アライアンスや業界団体の設立や参加、業界同業者との直接的な関わりなどが考えられる。

    最後に、政府、公共セクター、市民社会事業体とのエンゲージメントに関してである。事業体は、政府、公共セクター、市民社会とのエンゲージメント活動を見直し、それらが事業体のトランジション目標と整合し、支援するものであることを確認する。トランジション計画の一環として、事業体は、政府や規制当局に対し、ネット・ゼロに整合した投資やそのセクターのトランジションを促進する新たな政策や規制の策定を促すよう求めることができる。


ASSESSMENT

STEP 5/6

トランジション計画アセスメント
特徴4 ガバナンス

トランジション計画及びその実施には、大規模な事業体全体の変革を伴う。これは経営陣の主導で推進しなければならない。また、変革を確実に遂行するためには、堅牢な内部ガバナンス体制が必要となる。特徴4は、トランジションを推進するために必要なモニタリングや説明責任を果たすための社内の仕組みを扱う。

質問 1

事業体は計画を実施するためにどのようなガバナンス体制を備えているか。

補足事項:
トランジション計画は上級管理職と取締役会の監督・責任の下で計画の準備、見直し、承認及び実施の透明性が担保されるべきである。経営陣によるコミットメントを確保するために、経営陣の報酬を計画の達成度合いと紐づけるべきだという考えもある。また、経営陣の意思決定に影響を及ぼすという点において、インターナルカーボンプライシングが極めて重要な役割を果たしうることも提起されている。
適切なトランジション計画の策定と実施は、経営執行部と取締役会の監督・責任の下で行われなければならず、担当もしくはマネージャーレベルの責任において行えるものではない。

また、一部の事業体は、気候変動対策は広報部門が対応すべき課題であるとして、広報担当を責任者として特定している場合がある。しかし、明確なコミットメントと具体的な実施を伴わない広報戦略は長い目で見た時に事業体の評価にはつながらないだろう。
経営執行部に直接報告義務のある戦略部門のKPIの一つにトランジション計画の策定と進捗が含まれていることは評価される。一方で、長い目で見た場合、取締役会が気候変動にコミットし、これを事業リスクとして認識しない限り、経営執行部は気候変動対策を優先課題として効果的に取り組むのに苦慮することになるかもしれない。

これは、事業体のトランジションには、ビジネスモデルの転換、設備投資、気候変動への影響を踏まえた意思決定の再調整等が求められるからである。トランジション戦略は、経営執行部が取締役会からの支持を得てはじめて効果を発揮するだろう。
トランジション計画が効果的であるためには、責任、承認、モニタリングプロセスを規定する明確な職務権限を設定することによって事業体のガバナンス体制を堅牢なものとする必要がある。

より深く検討するための追加情報

経営執行部の責任範囲とその重要性

経営執行部はトランジション戦略の遂行に責任を有し、責任者は執行に足る権限と経営資源へのアクセスを持つ。経営執行部は重要な気候変動関連のリスクと機会を事業体の戦略、リスク管理プロセス、投資の意思決定に織り込まなければならない。
あるコンサルティング会社による最近の調査では、排出量が事業体の意思決定に十分に組み込まれない場合、経営執行部がトランジション計画を実行するのは困難だと指摘している。

事業体が気候変動に関連する財務上のリスクと機会への対応を管理するため導入する規則・プロセスの仕組み。

追加ガイダンス 取締役会の責任に関する指針

  1. STEP 1

    責任

    取締役会または同等の統治機関とは、以下を意味する:

    • 取締役会
    • 指名された特定のメンバーから構成される取締役会委員会
    • 取締役会または取締役会レベルの委員会に対して直接報告責任のある執行役員または委員会

    取締役会はトランジション計画(数値目標、ビジョン、具体的な行動計画、財務計画を含む)を設定または再設定し、監督する責任を負う。
    これには目標の未達成やマイルストーンの未達を修正するための計画の変更に加え、事業状況の変化や新技術が予想よりも早くオンライン化されるなどの市場動向を反映するための、少なくとも5年ごとの定期的な再評価が含まれる。

    義務:取締役会は経営が短期・中期・長期の気候変動リスクを十分に認識し、そのマテリアリティを評価し、リスクの重要度に応じて適切な行動をとるようにすべきである。

    責任範囲(可能性のあるもの):

    • 気候変動緩和に係る数値目標および実施戦略の設計を監督する。
    • 気候変動緩和に係る数値目標と実施戦略を承認する。
    • 実施戦略の遂行を監督し、進捗状況をモニタリングする。
    • 気候変動緩和に係る暫定的な数値目標および実施戦略のマイルストーンが達成されていない場合、必要な是正措置を承認し、モニタリングする。
    • 取締役会に気候変動関連課題の専任者を置く。例えば気候/サステナビリティ/ESGの担当者または委員会を設置し、各部門の気候変動/トランジションワーキンググループの活動や進捗状況を取締役会に報告させる。
  2. STEP 2

    数値目標の設定、実績、報告に関する監督

    気候変動緩和に係る数値目標と実施戦略の設定とモニタリング
    1)気候変動緩和に係る数値目標の設定と実施戦略
    少なくとも5年ごとに気候変動緩和に係る数値目標と実施戦略の全面的な見直しを実施し、必要に応じて更新することを含め、堅牢な気候変動緩和に係る数値目標と実施戦略を設定するための手段と仕組みが整備されていること。
    2)追跡とモニタリング

    気候変動緩和の暫定的な数値目標、具体的な行動計画や財務計画で特定されたマイルストーンや指標の達成状況を追跡・モニタリングするための手段や仕組みが整備されている。
    監督の対象となる例として以下が考えられる:

    • 内部監査などの部門がトランジション計画及びその進捗状況を精査する目的で実施する内部統制に関連する情報。
    • トランジション計画が株主によって精査されているかどうかを含む、ステークホルダーとのコミュニケーションとフィードバックの仕組み(事業体の年次総会における勧告的決議や、株主の承認を条件とする決議など)。
    • GHGパフォーマンスツールやGHG排出量に限らない気候変動緩和に係る数値目標に相当するものを含むがこれに限定されない、追跡・予測ツールに関連する情報。
    • トランジション計画にマテリアルな情報の更新が織り込まれ課題への対応が着実になされるよう、トランジション計画の定期的な見直しにかかるプロセスに関連する情報。

ASSESSMENT

STEP 6/6

トランジション計画アセスメント
特徴5 情報開示

トランジション計画の信頼性にとって透明性と外部検証は重要である。情報開示により、同業他社の取り組みとの比較が可能になり、グローバルな、国の、そしてセクターの取り組みの進捗評価が可能になる。

特徴5は、Climate Bondsの10年以上にわたる投資家との対話と気候変動関連の債券発行の追跡調査により、投資家を含め市場からベストプラクティスとして認識されている要素に焦点を当てて示す情報開示に関する提言である。

ポイント 01
取締役会及び経営執行部は、全てのステークホルダー、特に投資家や規制当局に対して、気候変動に関連する重要なリスク、機会、戦略的意思決定を確実に開示しているか。

情報開示のグットプラクティスの例として、クライメートボンド基準英国移行計画タスクフォース (UK Transition Plan Taskforce)の提言を参照。これらの情報開示は財務報告に含めるべきである。

ポイント 02
取締役会は、トランジション計画/ネット・ゼロ目標について対外的にコミットしているか。

トランジション計画の情報開示について、一般的な財務情報の開示について適用されるものと同様の規範を適用すべきである。具体的には、その情報について省略、虚偽の記載、または隠蔽が行われた場合、財務情報の主たる利用者がその報告に基づいて行う意思決定に影響を及ぼすと合理的に予想される情報は開示すべきである。

ポイント 03
事業体は、国際的なベストプラクティス(CDP、GRIなど)に沿った開示・報告体制を構築しているか。

情報開示は、報告を行う事業体の一般的な財務報告書における、より広範な気候関連の開示に基づき、統合されている。

ポイント 04
事業体は、GHG排出量と数値目標について、毎年、情報を開示しているか。

事業体は毎年、これらの目標および計画に対する進捗状況に関して、情報が一般に開示され、最低でも事業体のウェブサイトを通じて一般に開示され続ける限り、目標及び計画の調整または是正措置について開示する。

一般に検討可能なコミュニケーション形態の例としては、年次報告書、サステナビリティレポート、ウェブサイトなどがある。

ポイント 05
事業体は、これらの数値目標の算出方法を詳述/開示しているか。

事業体は、様々な団体によって開発されているGHG排出量に関する数値目標の計算ツールや方法論を検討したり、活用したりすることができる。このようなガイダンスの一例として、GHGプロトコルがあり、これにより事業体はGHG排出量の包括的で信頼できるインベントリを作成することができる。

ポイント 06
事業体は、これらの数値目標に対する実績を説明しているか。

事業体は、セクターごとに、重要となる排出量スコープの範囲を説明しなければならない。数値目標は、削減が十分に野心的であるかどうかを判断するために、関連するセクターの経路と比較される。
セクター別で見た重要となる排出量スコープの範囲の考え方については、CDPとGHGプロトコルが詳しいガイダンスを提供している。

ポイント 07
事業体は、GHG排出量に関する数値目標の結果について、外部検証を受けているか。

ステークホルダーの要請に応え、GHG排出量を含むサステナビリティ情報について外部検証を受けることを選択する事業体が増えている。このような業務に最も使用されている保証基準は、国際保証業務基準(ISAE)3000(改訂版)である。財務情報の監査やレビューを除いて、GHG排出量に関連するもう一つの基準は、GHG報告に対する国際保証業務基準(ISAE)3410である。

ポイント 08
事業体は、トランジションに関する財務計画を開示しているか。

事業体は、トランジション計画がどのようにリソースを調達するのか、また、これらの行動が事業体の財政状態、業績及びキャッシュ・フローに与える影響の予測を開示しなければならない。開示すべき財務計画の詳しい内容については、特徴2を参照。


アセスメント完了

おめでとうございます。信頼性の高く堅牢なトランジション計画を策定するためのベストプラクティスに関するツールの全工程を終えました。あなたの事業体がトランジション戦略と計画を策定し終えたならば、いよいよ計画の実施段階へと移ります。

トランジション計画の策定と評価に関連したIGESならびにClimate Bonds発行のレポートや各種ガイダンスは、「関連資料」からご覧いただけます。また、セクターごとの1.5℃整合の脱炭素化経路や1.5℃経路に適格な経済活動については、「クライメートボンド基準ならびにセクター別クライテリア」を参照ください。

計画の着実な実施には多くの人々の行動と協力が不可欠です。信頼性の高い計画は人々の行動を促し、協力を得るためにも力を発揮します。このツールが、そのような質の高い計画策定の一助となり、あなたのトランジション戦略が成功することを祈っています!